パートやアルバイトの健康保険・厚生年金についてのブログ記事のアイキャッチ

年収106万の壁!パートやアルバイトの健康保険・厚生年金はどうなるのか?

 

こんにちは!長崎県佐世保市の採用特化社労士事務所、楠本人事労務研究所です。

 

皆さんの会社は正社員や契約社員の他に、パートやアルバイトの人を雇用していますか?

 

これまでは中小企業であれば健康保険・厚生年金の加入要件は1週間の勤務時間が30時間以上】が一般的であったのですが、近年の法改正により複数回の加入要件の変更がされています。

 

また、直近では厚生労働省が【扶養されるパート等が厚生年金に加入する年収要件を撤廃、週20時間以上働けば年収に関係なく加入できるようにする方針で調整】と発表し、世間を騒がせております。

 

今回は、これらの健康保険・厚生年金保険の加入について解説しますので、是非最後までご覧ください!

 

【健康保険・厚生年金って何?】

 

健康保険・厚生年金(社会保険)とは、病気やケガ等の事故に備え、会社に勤める正規の社員や一定の条件を満たした非正規の社員は加入が義務付けられている公的保険の総称です。

なお、労働中の事故については健康保険ではなく、労災保険が受け皿になります。

 

健康保険の運営主体は「健康保険組合」と「全国健康保険協会(協会けんぽ)」の2種類があります。この運営主体を「保険者」といい、加入する社員を「被保険者」といいいます。

中小企業の多くは、後者である協会けんぽに加入しており、20246月時点では約2,553万人が加入しています。

 

【これまでの狭義の社会保険加入要件】

社会保険とは、労働保険や雇用保険も含めた広義でとらえる場合、健康保険(介護保険)・厚生年金のみの狭義でとらえる場合とがありますが、ここでは狭義の社会保険について解説します。

加入条件は事業所と従業員でそれぞれ異なるため、見て行きましょう。

 

【これまでの事業所の加入条件】

 

前提として、全ての法人事業所には加入義務があることは覚えておきましょう。

その際、保険が適用されるのは原則事業所単位であることには注意が必要ですが、本社と支社があった場合、多くは本社で一括して実務を行います。

この、社会保険の適用を受ける事業所を「適用事業所」といいます。

さらに、適用事業所は以下の2つに分類されます。

・社会保険への加入が義務付けられた強制適用事業所

・強制適用事業所でない事業所が認可を受けて社会保険に加入する任意適用事業所


【社会保険への加入が義務付けられた強制適用事業所】

 

強制適用事業所は、以下のいずれかに該当する事業所です。

 

・以下の事業を行い、かつ常時5名以上の従業員を使用する事業所

1.土木建築業

2.製造業

3.鉱業

4.電気ガス事業

5.運送業

6.清掃業

7.物品販売業

8.金融保険業

9.保管賃貸業

10.媒介周旋業

11.集金案内広告業

12.教育研究調査業

13.医療保健業

14.通信報道業

15.士業等

・常時、従業員を使用する国、地方公共団体または法人の事業所

 

【強制適用事業所でない事業所が認可を受けて社会保険に加入する任意適用事業所】

 

強制適用事業所に該当しない事業所は一切適用事業所になれないかと言うとそのようなことはなく、従業員の半数以上の同意を得て申請を行うことで「任意適用事業所」になることができます。

強制適用事業所の場合は健康保険と厚生年金のどちらにも加入する必要がありますが、任意適用事業所の場合、健康保険と厚生年金のどちらかのみ加入することも可能です。

 

【これまでの従業員の加入条件】

 

事業所で働く従業員が健康保険・厚生年金に加入するためには以下の条件を満たすことが条件になります。(介護保険は除きます)

・フルタイムで働く従業員、会社の代表取締役、役員等

・週の所定労働時間および1か月の所定労働日数が常時労働者の4分の3以上の従業員

・以下の①から⑤の全てに該当する従業員

① 週の所定労働時間が20時間以上

② 2か月を超える雇用の見込みがある

③ 学生ではない(夜間や通信の学生は除きます)

④ 所定内賃金が月額8.8万円以上(残業代や通勤手当等は含みません)

⑤ 事業所で常時使用する従業員が51人以上(202410月より51名以上に改正されています)

 

【社会保険の年収の壁に関する解説】

 

社会保険に関する年収の壁はいわゆる106万円の壁」130万円の壁」がありますが、ここでは「106万円の壁」について解説します。

 

勤務先の企業規模により、健康保険・厚生年金保険への加入義務が発生することは前述の通りですが、この規模が51名以上、かつ所定内賃金が月額8.8万円以上(年収換算すると約106万円)であることにより、この壁は発生します。

 

【年収の壁を越える】

 

社会保険に加入して働く場合、受給することができる年金額が増えることになります。

ケガや病気で会社を休んだ時に受けることができる「傷病手当金」、産前産後期間中に受けることが出来る「出産手当金」等があります。

その他、40年の内20年厚生年金に加入した場合、老齢年金の年額が約12万円上昇するといったメリットがあります。(月額給与によって上昇額は異なります)

 

【適用拡大の対象となった場合の社内の対応は?】

 

適用拡大の対象となる従業員が居る場合、対応するための手順が社内で漏れなく進められているか、点検しましょう。

大きく、手順としては以下の流れで行いましょう。

① 加入対象者の把握

② 対応方針の検討

③ 社内での周知

④ 従業員とのコミュニケーション

⑤ 書類の作成と届出

 

【加入対象者の把握】

 

まずは、社内の加入対象者を把握するようにしましょう。

健康保険・厚生年金の加入対象になるのは前述の【これまでの従業員の加入条件】を参照ください。

 

【対応方針の検討】

 

パートやアルバイト等の短時間労働者が新しく健康保険・厚生年金に加入すると、従業員および事業主の負担する社会保険料が大きく変わります。

負担する社会保険料については、厚生労働省の「社会保険料かんたんシミュレーター」で試算することができます。

 

これらから、自社の加入対象者を把握したうえで、対応方針を検討するようにしましょう。

企業に必要となる労働時間の確保のために、従業員をどのように活用するか、自社での対応方針を検討する必要があります。

 

【社内での周知】

 

新たに加入対象となったパートやアルバイト等の短時間労働者が、何も知らされないまま手続のうえ加入することになった場合、会社への不信感に繋がる恐れがあります。

法律の改正内容が確実に伝わるように社内のメールや掲示等を活用し、周知するように努めましょう。

 

【従業員とのコミュニケーション】

 

必要に応じて、従業員への説明会や個人面談を行うようにしましょう。

個人面談を行う際、本人には健康保険・厚生年金の新たな加入対象者であることや、加入した際のメリットを説明するようにしましょう。

配偶者の扶養内で働く方に関しては、健康保険・厚生年金に加入した場合は配偶者の扶養から外れることを説明のうえ、今後の労働時間制限について話し合うようにしましょう。

 

●健康保険・厚生年金に加入するメリット

① 将来、受け取る年金額の増加

② 被保険者が病気やケガによって障害状態と認定された場合、障害基礎年金だけでなく障害厚生年金が支給される(3級は障害厚生年金のみ)

③ 被保険者が亡くなった場合、遺族に対して遺族基礎年金だけでなく遺族厚生年金が支給される

④ 被保険者が病気、ケガ、出産等で仕事を休む必要がある場合、傷病手当金、出産手当金として賃金の約3分の2相当の給付を受けられる

⑤ 保険料は従業員のみが払うのではなく、労使折半である

 

【年収106万円の壁の撤廃】

 

厚生労働省は、来年の年金制度改定時に、「年収106万円の壁」を生じさせている要因である、月額賃金8.8万円という短時間労働者の厚生年金適用の要件を撤廃する方向で調整を始めました。

 

前述の通り、年収106万円は事業所の規模要件(現在は51名以上)等の条件によって短時間労働者に対して健康保険・厚生年金保険の加入義務が生じる水準です。

この加入義務により、年間約15万円程度の負担が生じることになります。

おおむね、加入前と比較して手取り額を増やすためには年収約125万円程度まで働く必要があります。

 

最低賃金の引上げにより、週20時間以上勤務という要件と月額賃金8.8万円以上の2要件に重複感が強まり、双方の要件維持の必要性が低下したことが要件撤廃を検討する背景、と厚生労働省は説明しています。

 

【年収106万円撤廃後に残るであろう現実】

 

実際はどうでしょうか。地域別最低賃金は毎年のように引き上げられ、東京都は1,163円に到達しています。全国平均で見ても1,055円と1,000円の大台を突破しています。

月額賃金要件が残ったままでは、最低賃金が引き上げられるに応じて労働時間は短くするよう調整する必要が出て来てしまいますが、月額賃金要件を撤廃すれば、そのようなことは発生しなくなります。

 

一方で、今回の改正方針では「週20時間以上の勤務」という労働時間の要件は残ります。

時間あたりの賃金が上昇することによる労働時間の調整は発生しなくなるものの、週20時間以上勤務させないという「労働時間を増やさない」という従業員の行動は残るでしょう。

 

そうすると、結局のところ労働時間の面で壁が残ることから、労働力が「時間」単位で不足すると考えた場合に根本的な解決には寄与しないのです。

 

【年収の壁・支援強化パッケージ】

 

202310月には、年収106万円の壁と年収130万円の壁の対策のための「年収の壁・支援強化パッケージ」を打ち出しました。

年収106万円の壁では、従業員の保険料負担軽減を実施する企業に助成金を拠出する政策を打ち出し、年収130万円の壁では、一時的に年収が130万円以上になっても会社側が証明を出すことで原則、連続2回までは扶養から外れないようにしました。

 

【キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)】

 

年収106万円の壁の対策として202310月より打ち出されたキャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)ですが、従業員負担分の保険料相当額の手当を支給することや賃上げを行うことにより、壁を意識せずに働くことができる環境作りを行う企業を後押しするコースになっています。

 

事業主が保険適用に伴って手取り収入を減らさないよう手当(社会保険適用促進手当、等)を支給した場合、本人負担分の保険料相当額を上限として社会保険料の算定対象とはなりません。

 

① 1年目

賃金の15%以上分を労働者に追加支給すること(社会保険適用促進手当、等)で1人あたり助成額として、6か月毎に10万円(2回分)

② 2年目

 賃金の15%以上分を労働者に追加支給すること(社会保険適用促進手当、等)に加え、3年目以降に以下の③の取組が行われることで1人あたり助成額として、6か月毎に10万円(2回分)

③ 3年目

賃金(基本給)の18%以上を増額させていること(労働時間の延長との組合せも可能)で、6か月で10万円の計5回支給

 

ここで注意しておかなければならない点として、1年目および2年目の社会保険適用促進手当については標準報酬月額の算定には考慮しない(保険料がかからない)ものの、3年目は標準報酬月額の算定には考慮する必要があります。

つまり、3年目以降は賃上げを行うことに加え、賃上げした分の保険料が上昇することは覚えておきましょう。

 

【まとめ】

 

いかがでしたでしょうか?

現在世間を大きく騒がせている「年収106万円の壁」の撤廃について記事を執筆させていただきました。

 

「年収106万円の壁」を撤廃した先には、週20時間以上勤務という「労働時間の壁」が残る形となるため、根本的な解決には至らないと考えています。

 

これまでは「そろそろ106万円超えそうだから働くのを控えないと…」という形で働き控えが発生していたものが、「週20時間超えないように働くのを控えないと…」と、働き控えを発生させる要因が変化するだけではないでしょうか。

 

キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)で従業員の保険料分を会社が手当という形で肩代わりすることで手取りを減らさず、会社側にも助成が下りるという政策も始まっていますが、3年目以降は手当の分も基本給に取り込まれ保険料算定の基礎になることと会社の負担は永続であることから根本的な解決には至りません。

 

こうした背景から、仮に「年収106万円の壁」が撤廃されたとしても週20時間未満の働き控えが継続されるのみで、現在の状況とさほど大きく変わらないでしょう。

 

そうすると、週20時間未満のパートの方やフルタイムで働く正社員の重要性が更に増し、世の中の中小企業は生き残りを賭けて更に苛烈になる採用環境に身を投じていくことになります。

 

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代表社会保険労務士 楠本一紀

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