雇用と同然の契約を業務委託契約として扱っていませんか?
こんにちは!長崎県佐世保市の採用特化社労士事務所、楠本人事労務研究所です。
「雇用契約は労働基準法を守らないといけないから面倒」
「雇用契約は雇用保険や社会保険に加入させないといけないからコストがかかる」
「業務委託契約ってことにしておけば会社のコストは浮くでしょ」
このような考えから業務委託契約を締結しておきながら、社員と同じような扱いをする経営者は非常に多いんです。
そこでこの記事では、そもそも業務委託契約とは何なのか、雇用契約とは何が違うのか、といったことを解説させていただきます。
これから雇用しようとしている従業員の形態や働かせ方から雇用契約を結ぶべきなのか、業務委託契約の方が合っているのか悩んでいる方はぜひ最後までご覧ください。
【そもそも業務委託契約とは何か?】
今では当たり前の言葉として用いられている業務委託契約ですが、実際は「業務委託」という契約形態はそもそも存在しないのです。
それでは、一般的に用いられる業務委託契約は具体的に何を指しているのかというと、民法における「請負契約」と「委任契約/準委任契約」を総称したものなのです。
それは法律上存在する言葉ではないため、我々が常日頃契約を締結する際に用いる「業務委託契約書」という書類は日常業務の中で用いられる実務用語を使い、わかりやすくした契約書と考えておきましょう。
それでは、民法で規定されている「請負契約」と「委任契約/準委任契約」についてここからは解説させていただきます。
【請負契約とは?】
請負契約は業務委託契約の一種であり、特定の仕事を完成させることを目的とした契約です。
民法上では、「当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる」と規定されています。
いわば、外注して成果物を依頼するような契約となり、完成までの工程について基本的に支持を出せず、外注先のやり方に一任する形になります。
例示をすると、自社の看板や名刺のデザインの製作、印刷を発注し、依頼内容に基づいた内容のデザインと所定枚数の名刺を成果物として納品してもらい、その対価として報酬を支払うというものが挙げられます。
その他の特徴としては、成果物の完成が目的であるため、成果物が完成するまでは基本的に報酬が支払われません。他にも、請負契約そのものは口頭によっても成立し得ますが、後々のトラブルを避けるためにも契約書を作成するといったことが推奨されます。
また、請負契約においてはどのような仕事をどの範囲で行うのか明確にするのが重要であり、成果物がどのようなものか、完成の基準を具体的に定める必要があります。これを定めないと、発注元と発注先でイメージしている完成の度合いが大きくズレてしまい、契約の履行に大きく影響を及ぼす場合があります。
加えて、仕事の完成期限(納期)を定め、遅れた場合のペナルティ等も定めることが一般的とされています。
【委任契約/準委任契約とは?】
委任契約/準委任契約も請負契約と同様に業務委託契約の一種であり、特定の業務の実行や処理を他人に依頼する際に用いられる契約を指します。
・委任契約とは
委任契約は代理交渉や契約の締結といった特定の法律行為を依頼する契約であり、依頼者が受託者に対して、その法律行為の遂行を任せるというものです。
委任契約の特徴としては、請負契約と異なり特定の成果物の完成は求められず、「業務を行うこと」が目的となります。報酬はある場合、ない場合と様々ですが、報酬の支払は依頼業務の完了とは結び付きません。
・準委任契約とは
準委任契約は委任契約と似ていますが、法律行為を除いた事務手続きや技術的な作業、コンサルティング等を依頼する契約を指します。
準委任契約の特徴としては委任契約と同様に結果としての成果物の完成は求められず、業務の遂行が目的であり、その業務の遂行に対して報酬が支払われ、必ずしも成果の完成を条件としていません。
委任契約と準委任契約の共通点としては、どちらも信頼関係に基づく契約であり、受任者は善管注意義務を果たす必要があります。また、成果物の完成が義務付けられていないため契約内容は柔軟に設定可能ですが、委任者、受任者共にいつでも契約を解除することが可能です。(相手に損害が発生する場合は賠償義務が発生することもあります)
逆に委任契約と準委任契約の異なる点として、委任契約は契約の代理締結といった法律行為を対象とするのに対して、準委任契約はコンサルティングやデータ入力といった法律行為以外の行為を対象とします。
【雇用契約とは?】
1人親方でない経営者は従業員と雇用契約を交わして勤務してもらっているかと思いますが、そもそも雇用契約とは何なのか、考えたことはありますか?
雇用契約は業務委託契約(請負契約、委任契約等)と同様に民法に定めがあり、「当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約すること」と定義されています。
その上で労働者側は労働基準法の適用を受け、労働時間によっては雇用保険や健康保険、厚生年金保険といった保険適用を受けます。
雇用契約を締結する際は雇用主側が雇用契約書を作成し労働者側に提示して内容を確認の上、双方の合意のもとに署名や捺印を行うことで契約完了となり、就業時間内においては雇用主側からの指揮命令下で労働を行い、その対価として報酬を受けます。
これらのことから、雇用主側は従業員に支払う報酬の他、労働保険を始め、雇用保険、健康保険、厚生年金保険といった保険料の会社負担分を併せて支払う必要があります。
このように、雇用契約を当然に締結している雇用主と労働者ですが、その間では様々な法律の縛りがあり、その中で労働力の提供を行っている実態があります。
なぜ今更このような話をしたのか、雇用契約を偽装して業務委託契約として締結し、労働者を働かせている「雇用逃れ」といった状況が存在するからです。