事業承継した二代目社長の新たな挑戦、ガタガタだった労務環境を立て直すキッカケの就業規則
【概要と相談までの導入】
長崎県にある金属を加工して業者に卸す鉄工所会社より、一本のご連絡をいただきました。
「突然のお電話失礼いたします、ホームページを見てご連絡させていただいたんですけど…」
ホームページを経由してご連絡いただいたことや、非常に神妙な声色であったことから、緊急性を要する問題が起きている、または起きようとしているのではないかと思い、本来ならば電話口で状況をお伺いして訪問の日程を決めて後日お尋ねするところ、会社と社長のお名前だけお聞きしてすぐさま駆け付けました。
「つい最近先代から事業承継したばかりで、会社の土台になる従業員の労務の部分がガタガタなんです、就業規則もこのような状態で…」
社内を案内されて、就業規則はすぐに見つけることができました。
しかし、それは社長席の横に紐でぶら下げられており、規則自体もコピー用紙をそのまま使用していたのかくたびれており、あまり使われていなさそうなのが一目でわかりました。
就業規則は会社の制度の変更や法律の改正に伴って都度、アップデートを重ねる必要があるため本来は就業規則がそれほどボロボロになるということはないでしょう。
ご連絡の趣旨もそれに起因するものでした。
今回は緊急性の観点からすぐに会社に参りましたが、基本的には初回の面談前に以下の資料をご準備いただくようお伝えさせていただいております。
・直近の決算書
・就業規則(附則も含みます)
・1年分の賃金台帳
・締結済みの労使協定
【初回面談:社長からの状況説明とヒアリング】
ご準備いただいた資料に目を通す前に、社長からご相談に至った経緯と就業規則の作成にあたって、「会社をどのようにしていきたいのか、その上で就業規則をどのように活用したいと考えているのか」をヒアリングさせていただきました。
その内容としては、冒頭でもお話した、事業承継と社内の管理体制の問題でした。
「事業承継したばかりで先代のやり方や風土が未だ色濃く残っている状況であり、自分自身は非常に古い文化であると感じている。時間をかけてでもそれらを改革していかないと会社の存続そのものが危なくなってしまうため、改革の第一歩として会社を支える人の部分、その根っこにある就業規則から整える必要がある」といった想いを語っていただきました。
その他にも、会社の売上状況と賃金とのバランス、勤続年数や従業員のスキルと報酬が見合ったものになっているのか、支払方法等についてもヒアリングしました。
勿論、これは就業規則のヒアリングというよりは会社そのもののヒアリングです。
しかし、就業規則は会社と従業員の契約や条件を記したものであると同時に、会社の「想い」が宿るものであるため、就業規則を作るにあたっては会社そのものについて聞くことは欠かせません。
実際に話を聞いている中で感じたのは、「就業規則は意識が回らなかったことから改定されておらず、給与の計算についても不明瞭なまま計算している部分を感じたが、会社をより良い方向に変えていきたいという意識は本物、しかしどのようにするべきかわからない」ということでした。
特に就業規則は専門性が問われるものであり、1歩間違えばそれが会社と従業員の契約内容になる部分も多いため、専門的な知識を持たない方がインターネットに転がっているテンプレートを丸パクリしようとするのは非常にリスクが高いのです。
【ご提案:就業規則と付随する附則】
会社の状況や社長の想い、方向性をヒアリングする中で今回、ご提案させていただいた就業規則および付随した事項を定める「附則」は以下の通りです。
・就業規則本則
・賃金規程
・休職、復職規程
・ハラスメント防止規程
それぞれの附則がどのようなものか、詳しく見ていきましょう。
【賃金規程】
賃金規程は主に就業規則の中の「賃金」に関係する部分を抜粋したものであり、必ず記載しなければならないものとしては「賃金の決定や計算方法」、「賃金の支払方法と支払時期」があげられます。
賃金の体系として基本給に加え、〇〇手当等、会社によって採用しているものは異なります。
今回の会社さんは職能手当や家族手当が月額賃金として支給されていたため、どのような人にいつ、何円支給するのかを詳細に記載いたしました。
また、賃金の支払時期も必ず記載する必要があるため、同様に賃金規程に記載をしていきます。
この支払時期は毎月1回以上支払うことが定められているため、未払が発生しないよう規程として定めると共に、実態としても起こらないよう丁寧に進めさせていただきました。
【休職、復職規程】
休職、復職規程は今回就業規則を作成することとなった中で特に注目されていた部分の1つでした。
というのも、これまでは「休職」という制度をまともに運用できていなかったため、過去の就業規則に明確な休職期間の定めが無く、「あなたが帰ってくるのをいつまでも待ちます!」という状況だったのです。
これはまずい、と考え就業規則を新しく作成するにあたっては特に力を入れて作成した部分でした。
そもそも、期間を設けなければ休職に入った従業員について、復職するか自然退職とするかの満期が無いためその気になれば延々と在籍して休職し続けることも考えられるためです。
加えて、入社してすぐに休職し始める人も居る、ということだったため、特定の条件を満たす従業員には休職制度を適用しないこととしました。
更に、期間を定めることで休職満期となった際の傷病状態で自然退職とするか、回復の兆しが見える場合は延長して様子を見るか、といった選択肢が取れるようになりました。
【ハラスメント防止規程】
ハラスメント防止規程も休職、復職規程と同様に社内の制度を整えるにあたって特に力を入れた部分でした。
この会社では、今の社長に代替わりする前の先代の頃、パワハラの被害にあった従業員が居たそうです。
しかし、当時はパワハラという単語が世間に定着する以前であったため対処ができず、被害者は退職してしまい、間もなく加害者も退職したそうです。
「これで優秀な人が辞めてしまうのは勿体ない」と熱く語られ、ハラスメント防止のために規程を別で創設するに至りました。
【メイン面談:規則内容のヒアリング】
作成する規程のご提案が完了したら、そのまま中身のヒアリングにいきたいところですが、弊所では規程のご提案後のヒアリングは別日に行うようにしております。
目的としては、改めて自分の会社を俯瞰して見つめなおしていただきたいと同時に、会社をどのようにしていきたいのか時間をかけて考えていただきたいからです。
弊所は、就業規則を「会社の想いの集合体」と考えています。
会社の数だけ経営者が居ます、そしてその数だけ会社に託す想いがあります。
私達はそれらを汲み取り、就業規則として可視化するお手伝いをさせていただきます。
【労働保険番号の確認】
ここからは実際に中身のヒアリングに入りますが、まずは就業規則そのものではなく、会社が加入している労働保険の保険番号の確認等、外堀の部分の確認から入ります。
この番号は会社が就業規則を労働基準監督署に届け出る際に必要になる番号であるため、これを把握した状態で心置きなく中身のヒアリングに移るためという狙いもあります。
過去には設立直後の会社が従業員を雇用しているにも関わらず労働保険加入を忘れており、就業規則の作成のタイミングで発覚したということもあったため、就業規則の作成に付随して「これもやっておかないといけない、これもやっておいた方が良い」といったことを洗い出す作業も要所要所で含みます。
【従業員の人数と雇用契約書の把握】
そもそも自社の従業員が何人居るのか、そして内訳として正社員と契約社員、パート等がそれぞれ何人ずつ所属しているのか明らかにします。
この人数次第によっては就業規則の本則だけではなく、契約社員用の規則を分けて、労働条件を異なるものにしておいた方が良い場合もあります。
また、労働条件を明示する手段として雇用契約書や労働条件通知書をしっかり交わしているかの確認もこのタイミングで行います。
【ヒアリング:始業時刻や終業時刻、休憩時間】
まずは就業時間に関するヒアリングを行います。
今回の会社は通常の労働時間制だったこと、早番と遅番といった複数の労働時間のパターンで働く会社ではなかったため、始業時刻と終業時刻、休憩時間をヒアリングのうえ1パターンのみ記載することで足りました。
これが複数の労働時間パターンがある場合はそれらを記載すると共に、会社や部署によって労働時間が異なるパターン、変形労働時間制やフレックスタイム制を採用している場合は別途記載したり労使協定を締結する必要があるため注意が必要です!
【ヒアリング:休日、休暇】
実は会社の状況が正しく反映されていないNo.2の部分です。
今回の会社は土日祝と年末年始に休みがあったため、休日についてはすぐに記載できるでしょう。
残業代の計算単価に用いる「月平均所定労働時間」もこれらの休日を基にして年間所定労働日数を算出するため、休日がわかればこれも容易に算出できます。
問題はここからでした。
従業員を複数グループに分けて時期指定で年次有給休暇を夏季に取得させたいとのことだったので、通常の就業規則だけでは対応できない部分がありました。
そのため、就業規則だけでなく労使協定も併せて締結することで対応いたしました。
【ヒアリング:賃金の計算方法と決定、支払方法】
賃金の計算方法も会社によって年俸制や月給、日給、時給と様々です。
また、雇用形態によって変わる場合もありますが、今回の事例では全従業員が日給月給制であり、出勤した分だけ給料が増えるという仕組みでした。
今回は全従業員が同様の取扱いでしたが、雇用形態によって計算の仕方が異なる、部署によって異なる、といった場合はそれらを全てヒアリングして、就業規則に条文として落とし込む必要があります。
更に、支払方法について深く考えて就業規則を作成している会社は少ないですが、専門家の力を借りずに作っている場合、ちょっとした落とし穴があります。
近年の一般的な支払い方は「口座振込」となっていますが、実は法律の原則が追い付いていないんです。
なんと、法律上では給与支払いの原則は未だに手渡しによる方法となっており、例外として口座振込も認めるような条文になっています。
そのため、例外規定を設けておかなければ給料を手渡しで支給することになってしまい、非常に不便なことになってしまいます。
【ヒアリング:給与に付随する手当】
実は会社の状況が正しく反映されていないNo.1の部分です。
特に、テンプレートのまま使用している場合や10年前くらいに作成した規則をそのまま使っている場合はほとんどの場合、既に使用していない手当が羅列していたり、逆に新設した手当がどのような事由でいくら支給しているか記載されていない状態になっています。
【ヒアリング:賃金の締切、支払時期】
今回の事例では勤怠を月末に締め、給料を翌月の10日に支払っていたため、条文そのものは比較的容易に作成することができます。
しかし、月例賃金と残業代を異なるタイミングで支給する場合は注意が必要です。
(月例賃金を当月、残業代を翌月に支払う場合等が該当します)
会社の状況によって月例賃金と残業代をまとめて翌月に支払う、当月に月例賃金を支払い、翌月に前月分の残業代と月例賃金を支払う、といった様々な手法が取られていますが、いずれにしても支給日を明確にすることと、「何を当月に支払い、何を翌月に支払うのか」を必ず明確にしましょう。
【ヒアリング:法定外控除】
ヒアリングを進める中で、私は必ずこのような質問をするようにしています。
「社会保険や税金の他に従業員さんから昼ご飯代や社員旅行積立などを引いたりしていますか?」
特に自社で食堂をお持ちの会社さんですと昼ご飯代を控除していることが多く、その場合は就業規則のみでは対応しきれず、労使協定を締結する必要があります。
【ヒアリング:賃金の改定】
多くの方は「昇給」という書き方をしますが、弊所では「賃金の改定」としてヒアリングして就業規則にも記載しております。
会社を運営して評価制度等を取り入れる以上、実際に起こり得るのは昇給だけではなく、従業員の成績等によって降給する場合もあり得るからです。
【ヒアリング:定年と再雇用】
多くの会社は現在も定年は60歳でしょう。それはこの会社も例外ではありません。
しかし、定年だけでなく「退職日をどうするのか」を考える必要があります。
例えば、「満60歳に達した日を含む事業年度の末日」とした場合、法人の決算日が3月31日だとしたら5月頃に60歳を迎えた従業員も3月31日まで働き続ける制度となってしまうため、非常に扱いづらいものとなるでしょう。
そのため、この会社にも推奨したのは、「60歳に達した日を含む賃金計算期間の末日」です。
これにより、勤怠の締日である末日に定年退職を迎えることになるため、引続き雇用されることを望むかそうでないか、早期に会社と折衝することが可能になります。
【ヒアリング:退職時手続と解雇事由】
民法上では自己都合退職は14日前に申し出るよう定められていますが、会社によっては引継ぎ等の兼合いで1か月や2か月前に申し出ることを希望することもあります。
今回は3か月欲しいと社長の希望があったためそのように記載していますが、民法と比較して非常に長期になる場合は、必ずこのように忠告するようにしています。
「あくまで就業規則の期間はお願いベースであり民法が優先されるので、記載されている内容が法律に勝るものではなく、なぜこの期間が必要なのか、その間で従業員に何をして欲しいのか明確にしましょう」
解雇事由についても、元々は勤務状況不良程度の事由しか記載がありませんでした。
そのため、会社が「これをやられたら解雇を考える程に損害が出る可能性がある」ことを幾つか列挙したうえでそれらを記載するようにしました。
【ヒアリング:賞与、退職金】
賞与や退職金は支給自体をしていない会社は記載する必要はありませんが、支給する場合は必ず記載が必要です。
賞与の場合は何月に支給するのか、誰にどのような条件で支給するのか、退職金の場合はどのような積立方法を行うのか、自社積立か外部積立か等、詳細にヒアリングいたします。
【ヒアリング:服務、懲戒】
会社で「守らなければならないもの」を明示した部分のヒアリングです。
勤務場所を離れないこと、といった基本的なことからSNS等への情報漏洩の禁止、副業兼業の規定、その他数十項目にも及ぶ内容をヒアリングして記載します。
また、これらの服務は違反した場合、懲戒につなげることで従業員を戒めることも可能です。
懲戒にも段階があり、状況や行為に応じて懲戒を適用することで社内の秩序を守るという目的があります。
【本則及び附則の作成、確認】
ヒアリング事項が完了した後、実際に本則や附則の作成に入ります。
大体、期間は本則が1か月から1か月半、附則毎に2週間から1か月ほど頂戴しております。
例えば、今回のように本則に加えて附則を3つ作成した場合は2か月半から4か月程度必要になります。
ここでは、記載内容が法に則っているか、従業員を過剰に縛り付けるようなものになっていないかといったことも確認しながら作業していきます。
一次完成後、社長に一緒に確認してもらいます。
その際に、会社の状況とマッチしているか、他に追加してほしい内容があるか、といった部分を重点的に確認のうえ訂正を行います。
【従業員説明、意見聴取、届出】
会社によっては従業員に説明会を開くことを求められる場合があります。
その際は全員に就業規則を配布したうえで、直接中身を説明して質疑応答を行います。
「全て会社の都合の良いように作られているんじゃないのか」という疑念を払拭することで、納得いただいたうえで意見聴取、その後労働基準監督署へ届出を行います。
【納品】
届出後は就業規則の納品を行いますが、弊所ではwordデータやPDFデータの納品に加えて紙媒体での納品を行います。
納品にあたっては規程毎に分割したうえでファイリングをして、傷まないよう専用のジュラルミンケースに包んで直接お伺いします。
大がかりですが、「就業規則」という会社の根幹を担う規則として、大切に閲覧して欲しいという狙いがあります。
【費用】
就業規則は厚生労働省にあるモデル就業規則やインターネット上のテンプレートで作ることも可能ですが、会社の状況と合っていない、いつの時代の規則かもわからない等の懸念があり、専門家でない人が着手するのはあまりにもリスクが大きいです。
しっかり専門家に依頼することで自社の状況に合った、法に則した過不足ない規則を作ることが可能になります。
就業規則が形骸化してしまっていると感じる方、会社の就業規則を時代に則したものにしたい方、会社の想いを就業規則という形に反映させたい方はぜひ楠本人事労務研究所までご相談ください。
楠本人事労務研究所 代表社会保険労務士 楠本一紀
代表社会保険労務士 楠本一紀
【採用✕労務管理】の2軸で会社の幸せを支援
会社経営では、成長段階に応じて様々な悩みや課題が発生します。
楠本人事労務研究所では、お客様の成長段階に合わせてお悩みを聞き、適切なご提案を行い、事業の更なる成長をサポートいたします。
どんな小さなお悩みでも構いません。
「これって社労士に聞く内容なのかな…?」というお悩みでも構いません。解決できる相手に一緒にお繋ぎいたします。
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