従業員から見た就業規則の必要性とプロセス
こんにちは!長崎県佐世保市の採用特化社労士事務所、楠本人事労務研究所です。
前回の記事では就業規則を作成するにあたって、そもそも就業規則は本当に必要なのか、就業規則を作成することにどのようなメリットがあるのか、どのようなリスクをできるのか等、会社にとってプラスに働くこと、会社側から見たメリットでお話をさせていただきました。
就業規則が法律順守のためだけのツールではなく、会社の運営を安定させる、トラブルを未然に防ぐといった役割を果たすということは記憶に新しいでしょう。
それでは、「従業員側の視点」で考えた場合はどのような必要性やメリットがあるでしょうか?
実際の事例を交えながら、詳しく見ていきましょう!
【従業員側から見た必要性】
従業員側から見た就業規則の理解するにあたって、残業代の支払や退職金の請求に関する事例を参考にするのが非常に有効です。
一例として、こちらの判例を見てみましょう。
事件番号:平成26年(ワ)第18848号 残業代等請求事件
この事件では、原告である従業員が被告である会社に対して、長時間の労働や残業代の未払い、退職金の支払いに加えて、会社が適切な労働環境を提供しなかったことによる慰謝料を請求しました。
従業員は平成19年から会社で勤務しており、平成24年2月26日から平成26年1月25日まで、所定労働時間外の勤務を行っていました。退職後、従業員は未払いの残業代、退職金、および長時間労働に伴う精神的な苦痛に対する慰謝料を求めて訴訟を起こしたものです。
この裁判において、裁判所側はこれらの点を考慮して従業員の請求を一部認めました。
1.残業代の未払について
従業員が所定労働時間外に勤務したことが認められ、その時間への未払いの残業代として203万5695円の支払いが命じられたうえ、遅延損害金も加算されました。
2.退職金の請求について
従業員が会社での勤務期間中、適用される退職金規程に基づき、退職金として72万6600円が支払われるべきである、と判断されました。
3.慰謝料の請求について
従業員が1人で長期間に渡って24時間勤務を強いられたことで、精神的な苦痛を被ったことが認められ、慰謝料として30万円が支払われることになりました。
4.安全配慮義務違反について
会社側が適切な労働環境を提供せず、従業員に過重労働を強いたことは、安全配慮義務に違反すると判断されました。
この事例から、就業規則は従業員と会社の双方に義務を生じさせるものであり、適用されている退職金規程も裁判での争点となり、支払い義務が生じることがあるということが明らかになりました。
つまり、就業規則を作成したはいいが会社はそれを遵守するつもりはなく、あくまで体裁のために整えただけ、実態は社長の「俺ルール」で運用している、といったものは認められないということですね。
会社の状況に合わせて法律に沿った就業規則を作り、それを正しく運用することで初めて会社と従業員双方が守られる、という状態を作ることができます。
【安心感と公平性】
就業規則が正しく整備されていることで、会社に所属する従業員はこのような安心感と公平性を享受できるようになります。
1.一律な対応
我々はどこまで行っても「人」と「人」の関係性です。そこには当然ながら人として好ましいか、そうでないかといった好き嫌いの要素が発生します。
ただの人間関係であればそれでも問題ありませんが、この好き嫌いの要素が組織上の取扱いに関わってきたらどうでしょうか?
「アイツは俺の嫌いな奴だから重い懲戒処分にしてやろう」であったり、「アイツが昇給するのは気に食わないから、今の給料で据え置きにしておこう」といったり等、それこそ「俺ルール」がまかり通ってしまいますね。
そうならないために、どのような要素が賃金の改定に影響するのか、どのような行為が懲戒処分になり得るのか、といったルール付けをするのが就業規則の役割でもあります。
その他、一律な対応になるものとしてどのようなものがあるか、具体的に説明しましょう。
1-1.賃金の改定基準
就業規則に賃金の改定基準が明確に定められている場合、全従業員が同じ基準で評価されることとなりますので、そこには事業主の好き嫌い等の要素はなく、会社の業績及び本人の技能や勤務成績等で判定されることとなります。
これにより、特定の従業員(言わば、社長のお気に入り)だけが主観的な理由で優遇されることは無くなるでしょう。
1-2.休暇の取得
会社の休暇について正しくルールが定めてあると、全従業員が条件を満たした場合、平等に休暇を取得する権利を持つことが保証されます。
年次有給休暇をはじめ、母性健康管理のための休暇、生理日休暇、子の看護休暇等、会社で働きやすくするための措置を講じているものはいくつもあり、当然ながら、人間関係の好き嫌いで取得させることを優遇することはできません。
1-3.福利厚生の利用
福利厚生制度の利用条件が就業規則によって一律に適用されることで、他の制度と同じく「あの人はお気に入りだから良いけど、この人は嫌いだからダメ」といった扱いがされることを防ぐことが可能となります。
福利厚生の代表的な例としては健康診断や社員研修への参加等が挙げられます。
Aさんはお気に入り社員だから研修に参加させるけど、Bさんはダメ、といった取扱いをすることは認められないということです。
そのほか、特定の従業員が他の従業員と比べて優遇されることが、会社全体や他の従業員にとって不利益となることがあります。
他の従業員の心情としては、「どうしてあの人ばっかり可愛がられているんだ、ズルい!」となるのは当然ですが、その心情を引き金にどのようなことが起こるでしょうか?
1-4.モチベーションの低下
特定の従業員が優遇されることで、他の従業員は不公平感や不信感を抱き、モチベーションの低下に直結します。モチベーションで仕事をするな、と考える人も居るかもしれませんが業務の生産性を上げるには高いモチベーションを維持し続けるのは最も重要なことですね。
モチベーションが低い状態で仕事を続けると、「どれだけ頑張っても生活は良くならない」、「頑張ったところで評価されない」のような心持ちで仕事をすることになるため生産性が上がらず、会社の離職率も大幅に上昇する傾向にあります。
1-5.社内の信頼関係の崩壊
従業員間で不公平な扱いが続くことで、会社と従業員間だけでなく、従業員同士の信頼関係も損なわれ、チームワークが悪化することになります。
「あの人大した仕事してないのに社長のお気に入りというだけで評価されている」ということがある等、これによって従業員間での協力体制が崩れ、助け合うような組織作りが出来ずに業務効率が低下することがあります。
1-6.離職率の上昇
1-4でも少し触れましたが、優遇されていない従業員は会社や優遇されている従業員に対して不満や不信感を抱き、転職を考える可能性が非常に高まります。
その人材が「優秀にも関わらず社長のお気に入りでないことを理由に評価されない」ならば、より一層、会社にとっても他の従業員にとっても痛手になることは間違いないでしょう。
それだけでなく、そのような扱いをする会社だと外部に知れ渡ることで企業の評判も悪化、今後の採用難に繋がる可能性も考えられます。
このように、就業規則を作成せず「俺ルール」で会社を運営、自分が気に入った従業員は福利厚生面等も優遇して働きぶりも評価するが、そうでない従業員は冷遇して働きぶりも評価しないといったことを行うと会社にとっても従業員にとっても大きな損失を生む場合があります。
第一印象の仕事ぶりや人柄で将来に渡って人を色眼鏡で見がちになってしまいますが、業務評価は指定の時期に会社の制度に則って一律に評価しなければならず、人柄や好感度等とは切り離して考えなければなりません。
それを防ぐためにも就業規則を作成し、正しく運用することが必要ということですね。
2.ハラスメント対策
近年では社長は勿論、従業員間でも様々なハラスメントが横行しています。
比較的メジャーなパワーハラスメント、セクシュアルハラスメントをはじめ、妊娠・出産、育児・介護休業等に関するハラスメント(マタニティハラスメント等とも言います)、性的指向及び性自認に関するハラスメント(SOGIハラスメントとも言います)、就活ハラスメント、カスタマーハラスメント等、例を挙げればキリがありません。
これらのようなハラスメント行為、またはそれに準ずるような行為を受けた際、一度はこのように考えたことがあるのではないでしょうか?
「これってパワハラ(セクハラ)になるんじゃないかな…?でもどんな行為が当てはまるのかよく分からないし…」
そんな時、違和感を感じながらも人は泣き寝入りをしていまいがちです。その結果、ハラスメントを受けた優秀な人は会社を去ってしまい、残ったハラスメントの加害者側は会社に残り、また新しい対象を探すという悪循環を生み出してしまいます。
それでは会社の中で優秀な人材が育つ土壌が整わず、会社も従業員も幸せにはなれません。
これを防ぐために就業規則が非常に効果的なんです。
「これはハラスメントなのかな…?」と心の中でモヤッとしたとき、会社の就業規則を手に取ってみてください。ハラスメントについて明確な定義が書いてあったら、ハラスメントの行為者に対して懲戒に処するような文面が書いてあったら、そうは思いませんか?
就業規則は従業員を罰するためだけのものではなく、会社は勿論、自社で抱える大切な従業員を守るために存在するものなのです。
【労働環境の改善】
就業規則には、一般的に労働基準法24条や、同法91条等が定められています。労働基準法24条は賃金の支払方法が定められており、“通貨で直接労働者にその全額を支払わなければならず、それは毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない”といったような規定がなされています。また、同法91条は制裁規定の制限が定められており、就業規則で減給の制裁を定める場合、1回の金額が平均賃金1日分の半額を超え、総額が1賃金支払期の総額の10分の1を超えてはならないと定められています。これらから、従業員は規程で確実に賃金が支払われると定められていることによる安心感、加えて一定以上の賃金は生活のために減給してはならないという制限があります。
(ちなみに、1賃金支払期で減給できなかった分は翌月以降減給されるので注意が必要です)
【適切な休暇の確保】
就業規則には賃金に関することやハラスメントだけでなく、福利厚生の一部である休暇についても明文化されています。
法定で定められている年次有給休暇をはじめ特別休暇制度である公民権行使のための休暇や裁判員等のための休暇が挙げられます。公民権行使のための休暇は主に勤務時間中における選挙権の行使(期日前投票等)であり、あらかじめ申出た場合にはそれに必要な時間の休暇を与える必要がありますが、権利の行使を妨げない範囲で申出た時間を変更することができます。
また、裁判員等のための休暇は自社の従業員が裁判員もしくは補充裁判員となった場合、または裁判員候補者となった場合に与えられる休暇です。
そのほか、会社毎の福利厚生として様々な休暇が設定されていることがあります。
休暇の一例を挙げると、失恋休暇やペットの忌引き休暇等、会社の特色を出す部分も多くみられますね。
しかしながら、これらの休暇は有給なのか無給なのか、必ず就業規則で確認しておくようにしましょう。
【従業員の権利と義務の明確化】
これまで従業員の権利として福利厚生や休暇等について多く記載してきましたが、それだけではなく就業規則には当然に義務が発生します。
発生する義務は、服務規律をはじめとして解雇規定、懲戒規定等、会社での秩序を保つ上で守らなければならないものが多く存在します。
一例を挙げましょう。
「勤務中は職務に専念し、正当な理由なく勤務場所を離れないこと」
といった記述が服務規律に存在するとします。
そんな中で勤務中にふらふらと持ち場を離れて出歩く従業員が居たらどうでしょうか?
当然に、他の従業員からしてみれば「何をやってるんだアイツは」という印象を抱きますよね。
会社の秩序が乱れ、「アイツが何も言われないなら俺も同じことをしよう」という意識が働き、会社の統制が乱れる原因にもなります。
服務規律は、ただルールを定めて終わりというものではなく、違反に対しての罰則がセットになる例が多く見られます。
口頭の注意に始まり、始末書を提出させる、減給をする、出勤停止をする等、違反内容の重大性や繰返し行うことによって罰則は更に重いものとなります。
ルール違反に対して正しく罰則が規定されていることで、従業員同士がルールを順守し、ルールの範囲内で自由に働くことができるようになるため、会社と就業規則は切っても切れない関係にあるのです。
【就業規則の作成プロセス】
会社にとって世界に一つだけの就業規則はどのように作られるのでしょうか?楠本人事労務研究所での作成プロセスをご紹介いたします。
1.ファーストヒアリング
まずは会社の就業規則の作成目的からヒアリングします。
一口に就業規則と言っても、会社によってその作成目的は様々です。
従業員に指標になるものを作ってあげたい、会社としてのルールを明確化したものが欲しい、助成金の申請のために必要だから、従業員数が10名以上になって作成届出を迫られたから…等と、会社の数だけその動機があります。
2.附則を含めた規則内容のご提案
ヒアリング内容に基づいて、最適な就業規則をご提案いたします。
ここでは、基本セットとなる就業規則本則と賃金規程をはじめ、育児・介護休業規程や休職・復職規程、ハラスメント防止規程等をご提案させていただくことがあります。
3.セカンドヒアリング
ご提案させていただいた各規則について、詳細なヒアリングを行います。
会社毎の出勤時間や退勤時間、休憩時間は勿論、会社独自の休暇制度や服務規律、昇給時期や賞与支給時期、等ヒアリング項目は多岐に渡ります。
4.規則の作成
セカンドヒアリングの内容を基に、会社の実態やルールに則した就業規則を作成します。会社で慣例化している休暇や手当、ルール等もここで明文化します。
5.事業者確認
作成した就業規則を事業者と共に確認し、必要に応じて加筆修正を行います。
この際に、従業員への説明会を要するかお尋ねし、必要があれば完成後の届出前に従業員に対して直接説明および質疑応答の機会を設けます。
6.労働者代表の意見聴取
従業員のうち1人から作成した就業規則に関する意見を聴取します。
これは許可とは異なるため、ここで出た意見を必ずしも反映させる義務はありません。
しかし、弊所としては意見が合理的なものであったり、双方に有益なものであったりするならば反映したうえで届出を行うと会社がより良い方へ進むと考えています。
7.届出と納品
作成した就業規則を所轄の労働基準監督署へ届出た後、納品を行います。
【まとめ】
いかがでしたでしょうか?
今回は主に従業員側から見た就業規則の必要性や作成にあたってのプロセスについてお話させていただきました。
就業規則は会社と従業員の双方にとって必要不可欠なものであり、法的リスクの軽減や労働環境の改善等、様々なメリットをもたらします。反面、一度定めた取り決め毎は労使双方が縛られ、契約として果たす義務が生じます。双方に発生する権利や義務、恩恵を理解したうえで就業規則の内容を周知することで、労務管理の一貫性や透明性を確保し、健全な労働環境を築くことに寄与するのです。
全2回に渡って就業規則の必要性についてお話いたしました。
就業規則を作成していない会社様、就業規則を作成したけど5年、10年以上放置したままの会社様、ここまで読み進めていただいて「ギクッ」となっているのではないでしょうか?
今からでも全然遅くはありません、楠本人事労務研究所はいつでも会社様に寄り添い、最適な就業規則をご提案させていただきます!
立派な志を持たれて就業規則を作成したいと考える会社様、焦燥感から作成に迫られた会社様、とりあえず話を聞いてみたいなと思った会社様もお気軽にお問合せ下さい!
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