キャリアアップ助成金の落とし穴!受給できると思っていた矢先に…?
【概要と相談の導入】
こんにちは!長崎県佐世保市の採用特化社労士事務所、楠本人事労務研究所です。
今回は、長崎県の個人でコンサルタント業を営む事業者様より、ご連絡をいただきました。
「従業員を雇って、今後正社員にすることも考えているのですが、活用できる可能性のある助成金はありますか?」
質問自体はよく見る、とてもありふれた内容でした。
兎にも角にも、まずは詳細なお話を聞いて、どのような方針で雇用や待遇改善を考えているのか明らかにしなければならないと思い、実際にお伺いすることにしました。
【ヒアリングと助成金ご提案、受給までの道程】
今回のコンサルタント業の場合、初めての従業員ということや、「助成金の名前は知っているけど詳細は知らない」ということもあり、まずは今回受給できる可能性のある「キャリアアップ助成金」の「正社員化コース」について、全体の概要を説明するのですが、説明の前に弊所が必ず事業者様に尋ねていることがあります。
「今回の正社員化は助成金が無くても行うつもりですか?」
助成金の受給はあくまで組織運営の手段の1つであり、助成金の申請のために正社員化する、というような手段と目的が入れ替わることは趣旨に反することになります。
それをご理解いただいたうえで弊所は助成金の説明をさせていただいております。
ざっくりとした内容にはなりますが、本記事でもご説明いたします。
キャリアアップ助成金正社員化コースで助成金を受給するには、有期雇用または無期雇用契約社員である必要があります。
そして、契約社員である期間が6か月以上ある状態で正社員転換を行い、更に6か月および1年間雇用を継続する必要があります。
この正社員転換の際、契約社員当時と同じ条件であってはいけません。
必ず、昇給を伴うものや、賞与または退職金で契約社員当時と待遇を分けなければなりません。
少々具体的に表現しますと、「契約社員には賞与は支給しないけど、正社員には支給しますよ」、「契約社員には退職金は支給しないけど、正社員には支給しますよ」というものです。
更に昇給は3%以上しなければならない等、受給するためには複数の壁があります。
【第一の落とし穴】
全体の概要を説明したうえで、初めての従業員ということもあり、今後キャリアアップ助成金の受給を視野に入れているならば、解決しなければならない問題があります。
それは、現時点で就業規則が無かった点です。
これでは今すぐに動いてもキャリアアップ助成金の受給などできるはずがありません。
弊所が社会保険労務士としてサポートさせていただき、ヒアリングを行ったうえで就業規則の整備も併せて行うことになりました。
就業規則は一見すると今回の助成金のため、と思われがちですが今後の事業所運営の中でも必ず役に立つものであるため、助成金を度外視しても作っておくに越したことはありません。
【就業規則の納品から正社員転換】
ヒアリングから数か月後、施行日も決まり、無事に就業規則の納品が完了しました。
キャリアアップ助成金を受給するためには契約社員である間に、契約社員としての就業規則の適用を6か月以上受けていることが必要になります。
そのため、仮に雇用期間が6か月を超えていたとしても、就業規則の施行日から6か月以上経過していない場合は無効になります。
この注意点はお伝えしたうえで施行から6か月以上経過した日に改めてアポイントを取り、正社員転換の旨と給与の昇給、賞与や退職金についての取扱いについて再度相談することとしました。
【正社員転換から第1期申請までの経過観察】
正社員転換後、第1期の申請にあたる6か月後までは本来であれば顧問契約する等して、随時給与状況を確かめる、または勤怠状況をお預かりして弊所で給与計算を行うのが一般的になります。
しかし、今回の事業所様は毎月支給額が変わる、または支給方法が明確化されていないような複雑な手当の支給が無いシンプルなものであり、更に給与計算についてしっかりとした知識をお持ちの方であったため、特に顧問契約は締結せずに、数か月に1度賃金台帳を送付いただいて、確認する程度に留めていました。
残業も無く、特に給与の変動も無いため事業所様も弊所も特に気にすることなく、このまま順調に6か月が経過して第1期申請の時期が来るだろうと考えていました。
(助成金受給の際に最もネックになるのは昇給不足や残業代の未払いであるため)
【第二の落とし穴】
正社員転換から6か月を経過して正社員化コース第1期の申請を行うために準備していたところ、事業者様と話す機会があり、雑談していた中で、どのような経緯や伝手で雇用することになったのか質問をしました。
「元々ウチで業務委託契約だったんですけど、すごくいい人だったのでそのまま雇用したんです」
業務委託契約から雇用に至ったという経緯を聞いて、転換日の前日から3年以内の出来事か確認したら、それに該当しているとのこと。
申請直前まで来て非常に心苦しいですが、転換日の前日から過去3年以内に請負または委任の関係にあったものは対象外になり得る旨をお伝えしなければなりませんでした。
対象労働者
ハ 転換日又は直接雇用日の前日から過去3年以内に、当該事業主の事業所又は資本的・経済的・組織的関連性からみて密接な関係の事業主(財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則(昭和38年大蔵省令第59号)第8条に定義されている親会社、子会社、関連会社及び関係会社など)において、正規雇用労働者等として雇用されたことがある者、請負若しくは委任の関係にあった者又は取締役、社員、監査役、共同組合等の社団若しくは財団の役員であった者でないこと。
出典 キャリアアップ助成金支給要領(令和7年4月1日付け)
【申請の結果と今後の雇用】
申請に関しての取組を進める中で発覚した、業務委託契約による対象外になり得る要件に該当するということ。
最終的な判断は労働局がするということもあり、事業者様と相談して申請書類は全て提出することに決めました。その際に申請書類の1つである「正社員化コース対象労働者詳細」の確認欄の「請負・委任の関係」にチェックを入れるようにしなければなりません。
この欄を確認しなければ不正受給になる可能性があるため、提出の際にも再度確認するよう心掛けました。
労働局の担当者と何度かやり取りする中でも当然この項目は確認がされましたが、請負または委任の契約にあった旨をお伝えすることで、事業者様と労働局の担当者の双方にご納得いただける状況となりました。
結果としては当然ながら不支給にはなりましたが、助成金をあてにした経営を行っていなかったことや就業規則を導入する良い機会であったということもあり、「不正に加担するよりはよっぽど良い結果だった」と前向きな姿勢で、今後も雇用に意欲的であることを示していただけました。
業種や状況は違えど、今回の事例が従業員の雇用をきっかけとした助成金受給の道筋を模索する会社の一助になり、今後の健康経営と雇用改善の参考になれば幸いです。
【事業者様のメッセージ】
助成金申請のサポート、ありがとうございました!
今回は残念ながら受給という結果にはなりませんでしたが不正受給になるよりはよっぽどいい結果だったと思います。
業務委託契約を締結していた経歴がまさか不支給に直結することになるとは思わず、そんな要件があることは知りもしなかったので、教えていただいて助かりました。
今後も自分がコンサルタント業を営む中で補助金や助成金は切っても切れない関係にあると思います。今回の経験を踏まえて、実際の申請はやはり専門家にお任せすることが一番であることを再確認できました。
【楠本人事労務研究所からのメッセージ】
まずは助成金申請および就業規則作成に携わらせていただき、感謝申し上げます。
今回は結果的に不支給になりましたが、請負または委任の関係にあったことを「そんな経歴は無い」と偽り、不正受給となるよりは健全な結果であったと言えます。
これは勿論、不支給の可能性が高いということをお伝えした際に耳を傾けていただき、「わかりました」と勇気あるご決断をいただいたからこそ今回の正しい結果に繋がったと確信しています。
〇〇をすれば〇〇円貰える!という甘い言葉が助成金に関する情報には溢れかえっていますが、実際は様々な要件を満たして初めて受給ができるものであるため、人を雇う、モノを導入する等お考えであれば、必ず検討段階でご相談いただく方が受給までのロードマップを描きやすく、受給されやすい環境を作ることが可能になります。
楠本人事労務研究所 代表社会保険労務士 楠本一紀
代表社会保険労務士 楠本一紀
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