現役社労士が実際に受けた、労務書調査についての記事のアイキャッチ

労働基準法違反!?あまりにも突然すぎる労基署調査

 

【概要と相談までの導入】

 

長崎県のとある美容業を営む方より、Instagramから一本のご連絡をいただきました。

「労働局の調査(?)が来て、何も分からず戸惑っています…」

ホームページをご覧いただきInstagramからメッセージを送っていただいたこと、事務所の営業時間である17時以降にご連絡いただいたことから、すぐにでも話を聞かないといけないと思い、今週の予定を幾つかお伝えしたうえで、詳細をお伺いすることにしました。

「突然の調査の紙が届き、不安な心中お察しいたします。一度事業所を拝見してどのような状況になっているか顔合わせも兼ねてお時間を頂戴できればと思いますが、〇〇日~〇〇日、または〇〇日の〇時以降でご都合の良い時間はございますか?」

 

【初回相談:代表からの状況説明】

状況説明

まずは、お客様の話に全力で耳を傾けることにしました。

どのような事業をされているのか、従業員は何人居るのか、どのような想いで働かれているのか、従業員を抱えるにあたってどのような書類が揃っているのか、または揃っていない書類はなぜ揃っていないのか。

 

それらを全て聞いた上で、今回の調査に取組むにあたって幾つかの戦略を練ることにしました。

現状見受けられる法令違反の部分については、隠していてもより悪質性が認められる一因にもなりかねないため、法令違反は法令違反として受け止め、改善への道程を考えることにします。

しかし、帳簿の不手際等は対策のしようがあるため、そちらは手を打つことにしました。

 

今からどうすることもできない違反の部分については、あらかじめ是正の方向性を考えておくこと、帳簿の不手際等の改善はこちらで行うこと、その他に行政側から指摘されそうな点の事前共有と回答の一例をご説明させていただくことを調査当日までの全体の流れとしてご説明させていただきました。

 

代表者からの話を聞く中で、私は今回の調査が定期監督であると考えていました。

労働基準監督署からの調査は定期監督の他に申告監督、災害時監督、再監督の計4種類がありますが、従業員の勤務状況や賃金の支払状況に大きな問題が見られなかったことから、申告監督(つまりタレコミのようなものです)である可能性はさほど高くないと考えていたためです。

 

調査後、法令違反があった場合はその悪質性に応じて対応が変わりますが、多くの場合は是正勧告書や指導票が発行され、提出が求められます。

今回もその場合を想定して調査後の対応を考えることにしました。

 

【見積りと対応範囲】

見積

今回、お客様のご要望に合わせて複数の見積りパターンを作成しました。

1つ目が、調査にあたっての事前書類の準備サポートや調査当日までのお打合せ、指摘されそうな点の共有や回答例のご説明等を含んだ【事前対応】から調査当日の立会い対応に加え、調査後の是正にあたっての方針の打合せ、事業所への是正内容浸透のためのアドバイス、対応に関して書類の作成が必要になる場合は当該書類の作成等を含んだ【事後対応】の全てを含んだパターン。

2つ目以降は、事業所側の対応可能範囲に応じて、事前対応を含まないパターンや調査当日の立会い対応を含まないパターン、事後対応を含まないパターン等、それぞれのニーズに合わせて見積りを作成して、お客様の予算と状況に合わせて最も良いものをお選びいただけるようにしております。

 

【調査の事前対応】

事前相談

今回、事前対応と事後対応についてご依頼をいただきましたので、まずは調査に臨むために書類の整理や状況確認等の事前対応から着手することになります。

ここで、いくつもの壁にぶち当たることになります。

 

【事前対応:雇用契約書】

 

まずは、雇用契約書を紛失していた点です。

雇用開始時に雇用契約書兼労働条件通知書を明示して交わしてはいたものの、それは数年前の話。

現在は日々の作業の中で書類がどこに行ってしまったのか分からず、労使双方が書類を見つけられない状態になっていました。

 

今回は美容業界のお客様でこのようなことがありましたが、実は他の業界でも「この書類が社内で保管されていない!」ということはしばしばあります。

書類の管理を含め、自社の労務管理に自信が持てない場合は社会保険労務士に管理を依頼する方が良いでしょう。

 

そのため、第一に雇用契約書を現在の条件で締結し直すところから始まります。

従業員全員の労働条件(基本給から各種手当、労働時間等)をヒアリングしたうえで労使双方の雇用契約書を作成、確認いただいた後に署名をお願いすることで雇用契約書の準備は完了しました。

後述に詳細がございますが、雇用契約書を紛失して締結し直すこととなった場合はその旨を調査時の労働基準監督官に正直にお伝えする方が好ましいです。

 

【事前対応:出勤簿】

 

出勤簿も時間外労働の時間数や休日労働の日付や時刻、深夜労働の日付や時刻といった情報が無く、各日毎の始業と終業時間が共有されているのみでした。

また、SNSで共有されていたため、法定保存期間である5年間を満たすことも難しいでしょう。

 

こちらにつきましても、弊所に共有いただいた始業と終業時間に加えて普段休まれている時間をお伺いして休憩である共通認識を持ったうえで、出勤簿を転記、事前に共有して調査資料として臨むこととしました。(当然ながら、時間数の変更等、記録の改ざんは行われておりません)

 

【事前対応:年次有給休暇管理簿】

 

年次有給休暇管理簿は目に見える形で保管されていない会社も多い中でヒアリングしたところ、今回のお客様も特に帳簿は付けておらず、必要な日に付与しているという状況でした。

一方で、事前に希望休を取ってその日を休日にしているため、年次有給休暇が必要となる場面が特に無く、消化に至らなかったという背景がありました。

 

年次有給休暇管理簿が無い状況でまず考えなければならないことは、「その従業員に毎年何日の年次有給休暇が付与され、現状何日分が残っているのか」ということです。

これを明らかにするために過去2年間分の出勤状況からの算出を試みましたが、元々はホワイトボードに手書きという状況だったために履歴が残っておらず、賃金台帳の勤怠欄から確認することになりました。

 

今回対象となった会社に所属している従業員は全員パートであったため、1年間の労働日数から比例付与という形で年次有給休暇の日数を計算していましたが、ほとんどすべての従業員について、付与日数が1年間で10日以上であることが発覚しました。

20194月に施行された法改正により、1年間で10日以上年次有給休暇が付与される従業員については、年5日以上の取得が義務付けられています。

しかし、事前に希望休を取ってその日を休日にしているという状況では、突発的な用事が発生しない限り年次有給休暇を使用することが無く、これまで未取得が続いていた現状が明らかになりました。

 

【事前対応:時間外労働に関する協定届】

 

今回の事例では、短時間勤務の従業員しか居なかったため、時間外労働に関する協定届の提出が無いと知った際に、提出を要することはないと当初は考えておりました。

 

しかし、ここに落とし穴がありました。

何しろ、業種がお客様対応がある業種なものですから、お客様の都合で労働時間が大きく変わるなど日常茶飯事。

実際に出勤簿を確認したところ、ほんのわずかに18時間を超える時間数の勤務がありました。

この部分についてはほぼ間違いなく指摘されると思いましたので事前に共有のうえ、早急に是正のための準備を行うことをお伝えしました。

 

【事前対応:総括】

 

今回の調査の中で、弊所で揃えられる書類は揃え、先方でご用意いただく書類はどのようなものがあるか相談し、どのような状態で調査当日を迎えるべきか共有する時間を設けさせていただきました。

 

また、書類の揃った状況から「指摘され得る部分はどこか、どのようにして事業所の状況を伝えるのが良いか」を共有のうえ、当日の調査に立会うこととなりました。

「ありのままを伝えるのが普通」というのは勿論そうですが、スムーズな調査への対応のためにも、調査対象となる部分に対して認識を擦り合わせ、どのようにお伝えすると監督官に伝わりやすいかは事前に話し合っておくと、弊所と事業所双方が立会う調査においては想定外のことが起きにくくなるため強く推奨しております。

 

【調査当日】

行政調査

調査当日は弊所の代表と事業所代表、行政側は労働基準監督官2名という面子で調査が始まりました。

開口一番に労働基準監督官より言われたことが、「休憩時間の取得と健康診断の受診について報告がありました」という内容でした。

 

事業所様よりヒアリングしていた中で過去の従業員の状況についても聞いていましたが、恐らく定期監督だろうという旨をお伝えしていたため、改めて気を引き締めることになりました。

申告監督(いわゆる、タレコミに近い)となると明確に行政側が着目する点があるため、その内容について重点的に回答する形になります。

 

今回の件での健康診断の受診は、そもそも対象が居ません。

健康診断の受診義務は正社員、または正社員と同等程度の時間(4分の3以上)働く従業員にありますが、現在の従業員はフルタイムの正社員が抜けてパートの従業員しかおらず、健康診断受診義務がある従業員はゼロのため、その旨をお伝えすれば特に問題ありません。

 

もう1点指摘された休憩時間の取得については、簡単に言うと「休憩が取れていない」という趣旨の内容でした。

これは、事前対応の中で始業時間と終業時間のみ報告していると判明している以上、休憩が取れていないと考えて労働基準監督署に申告に行くのも無理はありません。

 

少なくとも現在の従業員間では休憩時間とそうでない勤務時間について認識の相違は無いものの、今回の申告監督のきっかけになった人物とは認識の相違があったのかもしれません。

その人物について特定することは不可能のため、我々ができることは現在において、休憩時間の認識の相違は無く、6時間を超える時間については45分、8時間を超える時間は1時間の取得状況が保たれていることをお伝えする他ありません。

改善点を挙げるとするならば、労使間が認識している休憩時間について、何時から何時まで取得しているのかを明らかにすることでしょう。

 

これらのことをお伝えして、是正事項としては当初から懸念していた年次有給休暇の取得に加えて時間外労働に関する協定届の提出、指導としては休憩時間の取得について詳細な時間を明らかにすることとなりました。

弊所としては、妥当な形で着地したと考えております。

 

【事後対応:是正報告】

是正報告書

調査後、労働関係法令違反があると基本的には是正報告が必要になります。

しかし、悪質性によっては是正報告のみで済むことなく、逮捕されるというケースも存在します。

労働基準監督官には逮捕権が与えられているため、「法律違反していても紙だけ出せば良いでしょ」という意識で経営をしていると思わぬ形で逮捕・拘留をされてしまうことがあるかもしれません。

 

今回は年次有給休暇取得に向けた是正措置と時間外労働に関する協定届の提出、休憩時間の労使双方の認識に関する指導に留まったため、是正報告書にこれらの内容の是正に向けた方針を記載して労働基準監督署に提出して完了になります。

 

しかし、これはあくまで「行政への対応」が完了したのみです。

今回の事業所ではそれ以上の問題は起きませんでしたが、税務調査と違い、労働基準監督署調査は会社の「人」の部分に関する調査のため、調査をきっかけに社内のなあなあにしてきた部分が浮き彫りになり、従業員の心が離れて離職する、というケースは存在します。税務調査とは異なり、良くも悪くも「お金を払えば完了」という問題ではないことは認識しておかなければなりません。

 

【まとめ】

 

いかがでしたでしょうか。

労働基準監督署調査はお金の問題ではないことから「自分だけでも対処できる」と思われるかもしれませんが、実際に調査に立会った際には割増賃金の考え方から参入している手当、休日の取得や年次有給休暇の取得管理等非常に幅広い分野について質問されます。

それらに対して、全て法令に基づいた回答ができるかと言えば、恐らく難しいでしょう。

それで是正範囲の拡大は勿論、従業員への賃金未払いが必要以上の形で露呈するとなったら目も当てられません。

 

そのようなことになる前に、しっかりと専門家に依頼することで事前に打ち合わせを重ねて事業所様に正しい知識を付けていただき、法に則した対応と今後の方針まで含めてお話をさせていただくことが可能になります。

調査が来たことで今一度、土台をしっかり固めた会社作りをしなければならないと思った会社様は勿論、そのようなことになる前に予防して必要最小限の労力で調査や問題を解決したいとお考えの方はぜひ楠本人事労務研究所までご相談ください!


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