ウチの会社は大丈夫と思っている経営者の皆さん、命取りです
こんにちは!長崎県佐世保市の採用特化社労士事務所、楠本人事労務研究所です。
「世の中とんでもない会社もあったもんやなあ」
「ウチの会社はそんな大きい会社やないし問題なんて起こらんやろ」
「何かあっても言われてから直せばええやろ?」
会社のお金の問題は税理士さんに任せつつも、このような考えから「人」の問題においては専門家に頼らず自分自身で片付ける、または放置する経営者さん、実は多いんです。
そして、これは「実際に人の問題を軽んじた結果、裁判に発展した会社」もまた例外ではありません。
「お前は今日でクビや!」
威勢よく言った経営者さんのもとに、数か月後に内容証明郵便が届くことも少なくないでしょう。
そうした会社さんがどのようになっていくのか、そうならないためにはどのようにすればいいのか事例を交えてお話させていただきますので、ぜひ最後までご覧ください。
【解雇って簡単にできるの?】
結論から申し上げますと、解雇は「不可能ではない」ものの、解雇を行うには厳格なルールが設けられています。
諸外国やドラマのように、肩にポンッと手を置かれたらその日のうちに荷物をまとめて会社を去る、というような労使関係ではないのです。
そもそも解雇とは、使用者側(経営者等)が労働者との間の労働契約を将来にわたって一方的に解約することを指します。
この解雇に対して労働者側は解雇に応じる又は応じないという決定権はなく、会社の意味のみによって労働契約が終了する、ということになります。
しかし、これはあくまで正当な根拠に基づく解雇であることに限定されます。
会社がどのような理由であっても簡単に労働者を解雇できるのであれば、労働者の社会的な地位は非常に不安定なものとなります。
そのため、労働関係法令や実際の判例では会社が労働者を解雇するにあたっては、事由を限定して、その要件を満たさなければ解雇はできない、としています。
現に労働契約法の第16条では、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」という条文があります。
加えて、労働契約法の第17条の期間の定めのある契約(有期雇用契約)では、「やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない」と定められています。
このように、通常の労働契約の解雇と期間の定めのある契約の解雇では「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」と、「やむを得ない事由がある場合でなければ」と、解雇に関する条文が異なっています。
このやむを得ない事由は、解雇権濫用法理における解雇の合理的理由の程度より更に厳しく判断される、とされており、「可能ではあるものの、ほとんどの場合不可能」と考えていただければと思います。
ムチャクチャな精密設計を依頼された設計者の「技術的には可能ですが…」に近いものを感じます。
【試用期間中はすぐに解雇できるってホント?】
経営者さんの中にはこのように考え、試用期間を設けて採用したものの、「ウチの会社にはやっぱり合わないな」と考え、解雇としてしまう方もいらっしゃるかもしれません。
私も実際にこのような質問を受けたことがありますが、結論から申し上げますと、ウソもウソ、大ウソです。
誰かから入れ知恵をされ、このように考えられている経営者さん、非常に危険です。
この「試用期間中にはすぐに解雇できる」、というのは正確には「試用期間中の者は解雇予告の規定は適用されない。ただし、試の期間が14日を超えて引続き使用されるに至った場合はこの限りでない」となります。
これはあくまで解雇予告の規定であり、該当する労働者を解雇するにあたって30日前に解雇の予告を行うという規定が適用されないだけであって、実際に解雇しようとした場合は労働契約法第16条、または17条の規定の適用を受けることとなります。
【実際に解雇が無効になった判例はあるのか?】
解雇が行われ、その正当性が問われるケースは、解雇理由が「勤務成績不良」をはじめ「業務命令違反」や「経歴詐称」、「無断欠勤」、「ハラスメント行為」等様々であり、その理由によって解雇権の濫用となるかは異なります。
・セガ・エンタープライゼス解雇(平成11(ヨ)21055等)
従業員はセガ・エンタープライゼスに入社後、人材開発部や企画制作部等で勤務し、様々な部署を経験したものの、期待された能力を発揮することができず、成果が上がらないため複数回の異動が行われますが、人事考課も常に下位10%付近と低迷している状況でした。
会社側の状況としては従業員の業務遂行は不十分であり労働能率の向上は見込めないと判断、解雇に至ったと主張しました。
また、元々従業員が配属されていた部署からは協調性の欠如や積極性の不足、仕事への意欲の欠如等が問題視され、複数部署で面接を行ったものの受入れ先が見つからなかったと述べています。
そして、会社の就業規則に基づき、「労働能率が劣り、向上の見込みが無い」という解雇事由に該当するとして解雇を実施しました。
本裁判の判決のポイントとしては、大きく以下の点が挙げられています。
・就業規則に定める「著しく労働能率が劣り、向上の見込みがない」という解雇事由は極めて限定的に解釈されなければならず、人事考課上、会社で採用されている相対評価から下位10%未満の順位に属する者が居なくなることはないことから、常に相対的に順位の低い者の解雇を容認すると解釈することはできない、とされています。
・会社側が主張している従業員の問題点について、具体的な事実の裏付けはなく、人事考課においてフィードバックが指示されているものの具体的にどのような方法で行われているのか判然とせず、教育や指導の努力が不足していると指摘されました。
結果として本件での解雇は権利の濫用に該当するとされ、無効であると結論付けられました。
能力不足を理由とした解雇のハードルを高める判例として知られており、人事考課における順位が低いのみを理由とした解雇が難しくなることを示しています。
この判例から、会社は「解雇」という最終手段と呼べるものに安易に頼るべきではないことや、解雇の前に相当程度の能力向上のための教育や指導を行うべきと示唆されています。
また、従業員の能力不足は必ずしも従業員のみの問題ではなく、会社側の責任である場合もあることが併せて示唆されています。
つまり、「コイツ使えないからクビ!」という手段は安易には使えない、ということです。会社側から見て能力不足だと感じるならば、会社側の評価項目は具体的なものであり評価者の主観が入り込む余地は少ないか、評価基準は絶対的なものであるか、能力不足であるとした場合、それを解決するための教育や指導は充実しており、それを実践しているか、それらを全て踏まえた上での評価であるのかを検討する必要がある、というものになります。
【解雇が有効になったケースは?】
解雇が無効になったケースばかり紹介していてはどのような条件下においても解雇が現実的ではないのではないかと思われるかもしれません。
ここで、会社側の解雇に関する主張が認められ、有効となったケースもご紹介しましょう。
・シリコンパワージャパン事件(東京地裁平成29年7月18日)
従業員が入社していた会社はメールのcc欄に上司を入れるというルールがあり、当初は電子メールのccに上司を入れていたものの、時が経つにつれてccから上司を外すようになり、繰り返し指示を受けたにも関わらず改めることなく、結果として会社に損害が生じたことを理由とする普通解雇に対して、解雇の有効性が争点となった事件です。
当時、会社の従業員数は20名弱であり、平成27年3月頃、メールを出す際には社内外を問わず上司をccに入れるように、とした電子メールの送信を行ったが、同年7月頃より上司をccに入れないことがあり、上司の開始した業務が無駄になったこともありました。
再三の注意にも関わらず改めなかったことにより、同年11月に即時解雇を行い、解雇予告手当が支払われました。
本裁判の判決における判断基準として、大きく以下の点が言及されています。
①上司がメールで業務の内容や現在の進捗状況を把握することは、従業員からの報告を待たずして早期に状況を把握することができる点において合理的であり、従業員に対してさほど労務負担を生じさせることを強制しない点
②従業員が上司をccに入れることを明確に命じられた後もあえて従わずに同じ行為を繰り返している点
③従業員が本件での解雇当時33歳という分別の付く年齢であり、指導や教育等が解雇するために不十分でったとは認められない点
④大企業であったならばともかく、従業員数20名程度の会社であり、合理的かつさほど負担を生じさせない指示が特段の理由なく無視されることは許容できず、かつ部署移動といった解雇以外の手段を取ることが困難である点
結果として、解雇に客観的に合理的な理由がないとは認められず、従業員の解雇が有効となりました。使用者と労働者間の解雇に関する有効性はまだまだ認められないものも多いですが、少しずつこの関係性も変わってきており、「メールのccに上司を入れないという業務命令違反による解雇」と、原因そのものはさほど大きくないものの実害が発生していることや、再三にわたって注意や指導を繰り返していること等が認められて本件では解雇が有効であると判断されています。
解雇について、その合理性の立証責任は使用者である会社側に責任があるため、従業員の解雇を検討する必要がある際は、必ず顧問の社会保険労務士にご相談ください!
【解雇の合理性を立証するためには?】
問題を抱えた従業員が居たとして、その従業員に対して「1か月分の給料は出すから今日で辞めてくれ」といって解雇を言い渡した場合、従業員の中には解雇予告手当を受けた以上、何も行動を起こさない者もいるかもしれません。
しかし、世の中そのような従業員ばかりではないでしょう。
「解雇予告手当を払ったからといって解雇していいとは限らない!この解雇は無効だ!」と訴えを起こすかもしれません。同じように解雇された者と結託して同様の訴えを起こすかもしれません。そのような、会社の根幹を揺るがすような事態に遭遇しないためには、解雇に踏み切る前からその合理性を深く検討する必要があります。
・会社の就業規則を確認しましょう
まずは解雇の合理性を問う前に、自分の会社の就業規則に記載されている解雇に関する規定を確認しましょう。
もし解雇にあたって懲戒解雇を選択することがあった場合、そもそも会社に就業規則が無い、または懲戒に関する規定に該当しない場合は懲戒解雇自体を行うことができません。
普通解雇を選択する際でも、就業規則に定めた解雇事由に該当する場合以外、解雇ができないとする判例もあるため注意が必要です。
・解雇に至るまでの経緯が重要です
経営者さんの心の内で特定の従業員に対して不満が溜まっていたとして、ある時を境にそれが爆発して「お前はクビだ!」と言われても、従業員からしてみればある日突然解雇通達をされたと感じることでしょう。
解雇をするにあたっては、解雇権の濫用とされないだけの正当な理由や、解雇を回避するための最大限の努力が必要となります。
解雇に至るまでに、必要なだけの従業員との面談は行ったか、現在の部署または上司と合わないならば他の部署に異動させる配慮は行ったか、不満の源泉となっている行動は従業員のどのような感情に起因するものか。
たとえ解雇理由が正当なものであったとしても、その解雇方法が慎重さを欠いていた場合、解雇権の濫用と判断されることもあります。
【まとめ】
いかがでしたでしょうか?この記事では、人の問題で裁判に発展してしまった事例と解雇についてご紹介させていただきました。
解雇は避けるための努力を最大限行った結果、合理的であると認められる例もあるものの、必要な工程を満足に踏めず、解雇が無効であると判断されたものも多くあります。
解雇は非常にデリケートな問題であり、経営者さんだけで解決するのは非常に困難になる場合が多いです。
従業員の解雇をはじめとした、会社制度と実態の確認や見直しについて、対応の仕方がわからないという方はお気軽に長崎県佐世保市の社労士事務所、楠本人事労務研究所にお問合せください!
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